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今こそ中国論之七

 これは、2009年から2010年にかけて、インターネット市民新聞「JANJAN」に、ペンネーム青木岳陽として発表した文章です。


いまこそ中国論(20)中華圏観光客の日本イメージ

2010年もあと残りわずかとなりました。今年の日中関係を振り返ってみると、民主党政権の小沢大訪中団という日中蜜月を思わせる幕開けから一転して、9月の尖閣諸島問題では激しい日中対立が起こり、両国のぎくしゃくした関係はまだ尾を引いています。

しかし、民間交流の話題に目を向ければ、上海万博での日本館の人気は高く、今年前半期は中国人観光客の訪日旅行も大きな伸びを見せました。象徴的な一万人大旅行団の訪日や官民の各種交流行事は政治の影響を受けて中断されたものの、尖閣諸島事件の発生した9月には訪日観光客が過去最大を記録しています。10月以降は予約が埋まらないなどの波乱があるようですが、すでに旅行予約を済ませていた中国人観光客はあの事件を理由にキャンセルしなかったのです。

 中国内陸部で「反日デモ」が吹き荒れる中でも、上海万博の日本館や街の日本料理店は大盛況であったといい、訪日旅行を経験した中国人観光客は訪日前とのイメージギャップからか、大の日本ファンになってしまうという中国政府の思惑を超えた効果も生み出して、あの大訪日旅行団が中止になったのだともききます。

デフレから来る消費の低迷に悩む日本にとって、現在は台湾・香港をメインターゲットとし、今後数年で爆発的に増加するであろう中国、シンガポールやマレーシアなど中華圏観光客の日本ブームはまだ救世主になりますし、中国人観光客については不要な政治対立によって、このチャンスを逃すべきではありません。

 そこで、年末に少しでも明るい話題はないかと考え、1日本イメージ、2アニメ、3温泉、4家電ショッピング、5中国最新流行と分けて、私的中国人観光客論を書いてみたいと思います。ただし、私は観光業のプロではありません。そこで、あくまでささやかな個人経験に基づく私見であること、ネタとして少し古いものがあることをご了承ください。

 

1.流行歌と日本のイメージ

旅行で訪れる海外(欧米)のイメージは、シックで落ち着いた街並みでしょうか。日本では乱立する看板や電柱、ごちゃごちゃした街並みが美観を損ねていると改めて気づきます。
 その一方で、中国や台湾から日本の空港へ降り立つと、混沌としたアジアの雑踏とざわめきが一瞬にして消え、透明感のある澄んだ空気と野山の緑が新鮮で、何より「静寂さ」を感じます。駅や高速道路でも驚くほど静かなのです。先に「乱雑な」といった街並みも、整然として見えるほどです。

こうした感覚は、海外旅行から帰ってきた日本人だけでなく、中国や台湾など中華圏から日本旅行に訪れた観光客も同じように抱くようです。そうした日本イメージを中国語の歌から、一部を日本語に訳して紹介してみましょう。
 中華圏で幅広い人気を持つ女性3人のアイドルユニットに、台湾出身の「SHE」があります。台湾で「YOKOSO!JAPAN」の番組を持っていたり、バラエティ番組で片言の日本語を話したりと「哈日族(中華圏の日本大好き族)」を代表している感じですが、以前、上海でふと耳にしたBGMで「〜富士山がきれいね、〜ディズニーランドのパレードがどうたら」とか流れているので驚きました。それなのに、周りの中国人は気にも留めていません。

これはSHEの「五天四夜」という2004年の曲なので、少し古いですが、タイトルそのままに、4泊5日で伊豆の温泉からディズニーランドまでを巡る日本旅行を描いたものです。発売時期が愛知万博前だけに、仕掛け人は日本政府の「VISITJAPANキャンペーン」かもしれませんが、中華圏から見た日本のイメージを窺い知ることができます。

 

「五天四夜」 歌手:SHE 2004年 作詞:姚若龍/作曲:張正宗

二人で雨が上がるのを見ている。雪が積もった富士山がきれいね。

伊豆の雪は流星のよう。あなたと露天温泉で背中合わせになる。私の願いは秘密。

こんなに幸せで満足なんて大声で言えない。世界が聞いたら嫉妬するから。

四泊五日の旅行だけど思い出がたくさんできた。

四泊五日の旅行でもっと心が通じ合ったと証明できた。

ディズニーのパレードは誰の結婚式に似ているのでしょう。

携帯電話で写真を撮る。笑顔の世界は幸せでいっぱい。

(訳詩:青木岳陽)

 

 なんだか訳していてむずむずしてくるような甘たるい歌ですが、曲調はさわやかです。日本の漫画やアニメが大好きな「哈日族」は、やはり秋葉原や大須のような街が好きなのかと思いきや、意外にも「寧静(落ち着いた静けさ)」をイメージしているようです。
 また、富士山やディズニーランドは定番として、伊豆の露天温泉で雪を見る、というのは少し意外な感じがします。京都など、外国人観光客が好きな歴史スポットには興味がなさそうなのは、中華圏では仏教寺院が珍しくないからでしょうか。

 

2.火影忍者って何?

中華圏でも若者は日本の漫画やアニメが大好きで、「アキバ」に憧れ、「KAWAII」が共通語になっています。こうした中華圏の日本大好き族を「哈日族」といい、韓国ドラマが大好きな「韓流」と対照を成します。
 

私が中国杭州市の友人を名古屋・大須商店街に案内したとき、「火影忍者グッズを買いたい!」と頼まれました。高校生の弟が大ファンで、日本土産にせがまれたのだそうですが、私が「火影忍者?何それ?仮面の忍者赤影なら知っているけど(古いか)・・・」と戸惑うと、あまりに知らないせいか「日本人なのに、何で有名なアニメを知らないの?」と言われてしまいました。私はアニメを見ませんし、漫画にも詳しくありません。
そもそも、「唐詩・宋詞」とか「水滸伝」とか、中国古典ものが好きで中国語をやっている私に、日本のアニメのことを聞いても分からないのです。

大須商店街にあるアニメショップに連れて行き、店員との間に入って通訳します。ようやく「ナルト」という日本語タイトルが分かりましたが、「ほら、火影忍者に出てくる○○の・・・」とか中国語で言われても何のことやら・・・ゲームソフト(電子遊戯軟件)やDVDといった単語ならともかく、劇中に関係する言葉はさっぱりです。(店員が話す日本語でさえ意味不明だったりする)また、DVDは、パソコンで再生する場合はともかく、テレビだと受信形式(中国はPAL)や国ごとのリージョンコードによって再生できないことがあるので、外国人を買い物に案内するときの難しさを感じました。

まあ、言葉が違っても、同好の士なら分かり合えるのでしょうけど。

 さて、私が知らないうちに、火影忍者ことナルトは、中国の流行ランキング上位に登場するほど有名になったようです。中国の中高生で知らない者はないほど圧倒的な人気を集め、日本で放送された翌日には、もう中国語字幕がついてインターネット上に流れているほどだとか。中国にはPPSなどの巨大な映画・ドラマサイトがあり、日本からもアクセスできます。
 こうしたサイトでは、著作権をどうやってクリアしたのか(あるいはしていないのか)、日本や韓国の映画やドラマやアニメも無料で視聴できるのです。中国語字幕の最後には「有志の翻訳者募集」とあるので、放送されるやいなや、パソコンで字幕を作ってインターネットにアップする「ボランティア」たちがたくさんいるのだと思われます。
 

 ところで、ナルトの人気は中国に留まらないようで、外国人向けの日本語学校での出来事を描いたエッセイマンガ「日本人の知らない日本語2」(メディアファクトリー)にも、このアニメが好きで日本に留学してきた欧米人が出てきます。

 

3.日本直輸入の温泉とは

中国東北部・吉林省と北朝鮮が国境を接する場所に、中国十名山のひとつに数えられる長白山があります。東北トラやヒグマが生息する原生林に囲まれた火山で、噴火によってできたカルデラ湖「天池」を取り囲む外輪山の標高は2750m、山頂まで自動車道路が通じており、冬はスキー場になる観光地です。北朝鮮や韓国では白頭山と呼ばれ、日本人にとっての富士山のような存在だといえます。

長白山は、中国では珍しい火山であるため、山麓に豊富な温泉が湧き出しています。登山や観光の拠点になる吉林省延辺自治州の州都・延吉市からは延々200kも離れていて、決して観光に便利な場所ではありませんが、北朝鮮側からは訪ねられない韓国人観光客をはじめ、中国国内からも多くの観光客が長白山をめざします。

2007年の秋、私は延吉市から、朝5時出発、夜8時帰着の中国人ばかりの日帰りツアーに参加して長白山を訪ねましたが、ツアーの目玉は長白山温泉での温泉入浴でした。中国の温泉とはいったいどんなものだろう、と楽しみに行ってみると、天池を水源とする長白山瀑布、川原から立ち上る硫黄臭い湯煙などは日本の火山地帯と変わらない感じです。
 まあ、日本から遠くないので、植生を含め自然景観は似たようなものでしょう。次に、韓国資本のホテルや山荘が建つ温泉街には、店先に熱い温泉を引き込んで温泉卵を売る土産物店が並び、滝を見に行く遊歩道には足湯もありました。

さて、露天温泉という看板のある山荘では、日帰り入浴料金が80元(1200円くらい)もしました。中国の物価を考えても相当高い金額ですが、中国人観光客は気にも留めず料金を払っています。そして、カウンターでロッカーのキーを渡され、靴を館内用スリッパに履き替えて露天風呂へ。更衣室のロッカーを開けるとタオルと浴衣が入っていました・・・これでは、ほとんど日本の温泉です。

館内にある案内には、日本に行ったことのある山荘の社長が、そこで温泉経営のシステムを学んで中国に導入した「日本直輸入の日式温泉」だと謳われていました。一般的に中国人は他人同士裸で風呂につかるのを嫌うといいますが、ここは日本式だからと納得したのでしょうか、あまり抵抗なく露天風呂に入り、浴衣を着崩して休憩室でくつろいでいます。温泉は日本ブランド、日本が本場だという意識もあるのか、長白山の日式温泉は料金の高さにも係らず大盛況でした。

温泉=日本のイメージが、中国にある温泉まで変えてしまったのが面白いところでした。

 

4.中国人ツアーの家電爆買事情

2004年の秋、中国から30名余りのお客さんを市内観光に案内しました。

顔合わせは朝まだ早い家電量販店。彼らのお目当ては、日本の電化製品、なかでもデジカメを買うことなので、一旦店内に散らばってしまうと、やれ何はないか、値引きはできるか、と収拾がつかなくなってしまいます。そこで、事前に店側と交渉して、特別に開店時間を早めてもらったのでした。

日本へ来た中国人団体が、市内観光で一番楽しみにしているのが電化製品の買い物です。「海爾(ハイアール)すごいね、日本へ進出したよ」と言うと「まだ国産はだめ、日本製好」なんて声が返ってきます。いまや「中国は世界の工場」ですが、日本ブランドはまだ健在なのです。

ご一行様は、事前に配布した「チラシ持参で○割引」なんてチラシを手に、期待を膨らませて家電量販店に観光バスで乗り付けました。驚くべきはその買い物パワー、彼らの前では海外旅行の日本人なんて比ではないくらいです。経験上、彼らの買物は時間がどれだけあっても足りないから、予め時間は30分に制限していました。事前に欲しいものをチェックしてもらうためチラシを渡したのです。

若者はMD(当時。現在はipodでしょうか)、男は電気ひげ剃り、一般的にはデジタルカメラが人気商品のようで、それぞれのコーナーに殺到すると店員をつかまえて中国語で質問を浴びせます。「中国で使えるか?」「内部の構造はどうなっている?」「交換は中国でできるか?」価格はもとより、大きさ、色、形、全てに満足するまで商品選びに妥協はありません。

目に涙を浮かべて「欲しいモノが置いてない」などと訴えられるとこちらも弱く、岐阜にないカメラを求めて、日本人スタッフが名古屋まで走ることになりました。さて、欲しいモノが見つかったらどうするのか。日本メーカーの品であっても、メイドインチャイナでないことをしつこく確認します。

「これは日本製か、中国製か?」たとえ日本メーカーの製品でも、中国製では持っている価値が半減するようなのです。いくら気に入っても中国製だったら、買う意味がないとまでいいますが、日本で売られている中国製品は、中国で国産品を買うよりも品質がよいと納得する人もいるようです。

流行モノに興味のないお父さん(どこの国も一緒?)は、娘から託された買い物リストを手に、MDヘッドホンを探してうろうろしています。どうにか欲しいものが決まったら、いよいよ店員相手に値引き交渉が始まります。中国人お得意の「○個買ったら、いくらまける?」というやつですが、デジカメを、一気に「5台、10台まとめ買いするから、いくらまける?」とやるのです。いったい幾ら持っているのでしょうか。

さて、デジカメなどを手にレジに並ぶと最後のバトルが始まります。箱を開けて部品を確かめ、組み立てて故障がないか、試聴用MDを入れて音が出るか、レジで確認するのです。これを全員がやるので支払いにものすごく時間がかかります。いらいらしそうですが、そこは高い買い物だけに真剣そのもの、しっかりしています。
 お土産を手にバスに戻ると、お互いの買ったモノを見せ合って満足そうです。量販店の店員は面くらい、案内する私たちもぐったりしましたが、中国人の購買意欲と買い物行動を知るよい機会でした。

おーい、もう出発するよ。大幅に時間オーバーしたのに観光バスに戻ると「別の家電量販店にも寄ってください」まだまだ時間が欲しいというか、実は観光よりも1日ずっと買物の方がよかったのでした。

 

5.小熊花束って何?

 さて、最後に中国の最新流行事情について、観光客向けの商品開発のヒントになりそうなものをご紹介します。中国最大のインターネット販売サイトに「阿里巴巴.com(アリババドットコム)」があります。日本でいう楽天市場のようなものですが、いまや中国は世界最大のインターネット人口を抱えるので、 アリババは世界最大規模のインターネット販売サイトかもしれません。

 さて、アリババでは2009年の「手に入らなかった商品」つまり、注文に在庫が追いつかない商品ランキングを発表したそうで、日本のように各種ランキングがあまり発達していない中国では、人気商品の傾向を知るいい手がかりになるようです。

その第一位は「小熊花束」といいます。小さな熊のぬいぐるみに串をつけて束ね、花束状にした商品です。単純ですが、これがいま一番手に入りにくいというのです。中国で人気の出るアイデア商品は、香港か台湾発のものが多いのですが、小熊花束もやはり香港か台湾といった中華圏が発祥の地で、どこか中国人の感性に響くものがあったのでしょう。生花だと枯れてしまうし、造花では味気がないけれど、小熊のぬいぐるみなら可愛くてよい、という理由でヒットしているといいます。

台湾では「熊束」という名前で売られているようですが、「くまたば」と言い直すと日本でも流行りそうな気がします。試しに日本語で「くまたば」と検索してみると、熊が花束を抱えたものや、花で熊のかたちを作ったものが出てきて、中国で流行している小熊を束ねたものは見当たりません。

中国語では一を重ねた11が「一心一意(わたしの心はあなただけ)」、9が「永久に」というように、縁起のいい数字が好まれます。9は日本語のように苦を表す数字ではありません。そこで、家族や恋人へのプレゼントである小熊の数も、縁起かつぎで9や11となっているようです。ちなみに、お金儲けに関する縁起かつぎは「発財=財を成す」という意味の8です。

 このアイデアは中華圏観光客向けの商品開発に生かせないでしょうか。キャラクター商品は、日本人だけでなく、中華圏から訪れる観光客にも絶大な人気があります。まあ、小熊花束をそのまま模倣するのも芸がないのなら、8とか9とか11とか、縁起のいい数字にして中華圏観光客にアピールすると効果があると思います。




 
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